その他日の里夜話⑤ 苦肉の策で決着
- 更新日:2021年10月28日
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広報日の里2021年11月号から転載
産廃処理場建設をめぐり福岡高裁から示された和解案を平成9年4月、宗像市は受諾した。訴訟の原告坂本工業が、産廃焼却炉の設置届を提出した平成2年5月から数えても7年、胎動期を入れると10年にもなる紛争に、やっと終止符が打たれた。
日の里の住民にとって、土地代と解決金を合わせて5億8000万円もの解決金を、市が坂本工業に支払うという条件は、いまいち消化できにくかったが、裁判所における和解の結果とあれば納得するしかなかった。
とはいえ、約6億円もの負担は、宗像市にとって軽くはない。滝口凡夫市長は、問題の土地の買取りを苦汁を飲む思いで決断した。土地の利用方法の当てがあるわけではないのだから、市議会で否決されたら致し方ない、辞表を出すのみだと覚悟した。
平成9年3月16日、臨時に招集した市議会本会議で、滝口市長は率直に苦衷を訴え、土地代支出の承認を要請した。可否の採決では、議長を除く21人の議員のうち、反対は3人のみで可決、承認された。
市長はその場から直ちに高裁に駆けつけて協議の席に着いた。担当裁判官が和解条件を読み上げ、裁判長が「これでいいですね」と念を押し、原告坂本工業と被告宗像市の両者がうなずくと、裁判長が「和解が成立しました」と宣言した。これにより表面化してから7年間にわたり、産廃業者と日の里住民が戦い続けた紛争に終止符を打った。
日の里住民が闘争を開始した当時は、産廃処理上の新設が関係当局への届け出で済んでいた。当局である県は、業者の処理場建設の届け出に瑕疵がなければよしとするのだから、制止力はない。住民が県の態度に切歯扼腕しても、事態が動かなかったのは無理もない面があった。
高裁で一件落着すると、滝口市長は関係省庁に和解を報告するために上京した。厚生省をはじめ労働、環境各省の担当課長に報告した中で、ある役所の課長から「法律の不備によりご迷惑をおかけしました」と謝られて驚き、感動した。
その後、関係法律の改正作業が進められた際には、その人が中心的な役割を果たしたと聞いて、滝口氏は我が意を得た思いだった。
こうした経緯があって市有地になった村山田の問題の土地は、開発話のないままに原野として静まり返っている。すぐ下の国道3号を毎日、何万台もの車が行き交う。その中で、日の里住民が座り込みをして業者と渡り合った故事を知る人も、もう稀だろう。
お礼
本文では滝口凡夫氏著、西日本新聞社刊「記者市長の闘い」から随所に引用させていただきました。厚くお礼申し上げます。
お詫びと訂正
本紙8月号の本稿書き出し、「英ちゃんうどん店があった。今は長距離トラックの駐車場になっているここの」は、記者の錯覚でした。英ちゃんうどんは徳重の本店はもとより、村山田の支店も連日、多数の客で繁盛しておられます。電話一本かければ確認できたことなのに、無精したばかりにミスをしてしまいました。英ちゃんうどん店さんには早速お詫びに参上しましたが、読者の皆様にも改めてお詫びをし、訂正させていただきます。申し訳ございません。これをもって夜話を閉じます。(終)